2023 年 35 巻 1 号 p. 17-22
二酸化炭素欠乏環境においても効率的な光合成を可能にするために,シアノバクテリアと多くの真核藻類では,それぞれの細胞と個々の葉緑体内に炭素濃縮メカニズム(Carbon-Concentrating Mechanism: CCM)を備えている.真核藻類で広く見られる,CCMに関わる葉緑体の内部区画「ピレノイド」は,陸上植物の葉緑体に存在せず,細胞レベルでのCCMは,陸上植物では進化の過程で失われたように見える.しかし,唯一ツノゴケ類では,葉緑体中にピレノイドが存在し,実際にCCMを有しているとされる.本稿では,ツノゴケ類のピレノイドの特徴と機能,その進化起源について研究の現状をまとめ,陸上植物で,なぜツノゴケ類だけがピレノイドを有するのかについて考察する.