PLANT MORPHOLOGY
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色素体分裂機構の進化における転換点
箸本 春樹
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2002 年 14 巻 1 号 p. 44-53

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抄録
要旨:灰色植物(Glaucocystophyta)の色素体(シアネル)はペプチドグリカン層で被われ、分子系統学的にも形態学的にも、現在知られている色素体のなかでシアノバクテリアに最も近い性質をもっている。灰色植物Cyanophoa paradoxaの色素体分裂はペプチドグリカンからなる隔壁の求心的な形成をともなう。分裂狭窄部のストロマ側には色素体分裂リング(シアネルリング)が形成されるが、外包膜のサイトゾル側には形成されない。これらの特徴はC.paradoxaの色素体分裂が細菌の細胞分裂と色素体の分裂の中間型であることを示している。現在、色素体の起原と進化に関して単系統説が有力であるが、この説が正しいとすれば、色素体の分裂機構はC. paradoxaのような灰色植物の色素体の分裂機構を経て進化したと考えられる。また、サイトゾル側の色素体分裂リングはストロマ側の分裂リングの獲得後に獲得されたと考えられる。二次共生起原の色素体は、色素体包膜の外側に2枚または1枚の膜で包まれている。多くの場合、サイトゾルに面した最外膜は核の外膜と広い範囲にわたって互いに共有しているか、またはER膜を介して核の外膜と連続して「核-色素体連合」を形成している。 Nannochloropais oculata(真眼点藻Eustigmatophyta)は前者の例で、細胞当たり1個の色素体をもつ。その色素体分裂は核分裂と共役しており、核と色素体が同一の膜区画に収納された核-色素体連合は細胞の分裂周期全体を通して解消されることはない。核分裂は核の内膜が先に分裂するという一般の核分裂にはない様式でおこなわれ、そのことによって核一色素体連合を維持した形での細胞増殖が可能になっている。このような核分裂と色素体分裂の共役機構は二次共生起原の色素体を維持するための機構のひとっとして獲得されたと考えられる。
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© 日本植物形態学会
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