抄録
要旨:被子植物の花粉発生では, 雄原細胞と栄養細胞の分化が有性生殖成立のために必須であり, その分化は減数分裂後の小胞子のたった 1 回の不等(細胞)分裂に起因する. 小細胞の雄原細胞は, その後分裂により 2 個の精細胞となり, 雄性配偶子細胞として受精に機能する. 一方, 大細胞の栄養細胞は, 配偶体細胞として機能し, 花粉管を伸長することによって配偶子を胚のうまで運搬する. 構造や機能が大きく異なるこれら2種類の細胞を生み出す不等分裂の機構を探るために, 我々は両細胞の遺伝子活性に大きな影響を与えるであろうクロマチン形態の差異(雄原核: ヘテロクロマチン, 栄養核: ユークロマチン)に着目した. そこで, ゲノムサイズが巨大なテッポウユリを材料に, 花粉プロトプラストを用いた独自の実験系によって単離・精製した雄原核と栄養核のヒストン構成について生化学・免疫学的比較を詳細に行うとともに,単離したヒストン遺伝子の発現解析を行った. その結果, ヒストン(変種)群の中から, 1)両核に共通して存在する, 通常の複製依存型ヒストンの他に, 2)雄原細胞で特異的に遺伝子発現し, 雄原核と精核に局在するヒストン変種(gH2A, gH2B, gH3), 3)栄養細胞で特異的に遺伝子発現し, 栄養核に局在するヒストン変種(H3.3)を見出すことができた.