1998 年 1998 巻 p. 1998-1-031-
適切な公共政策を実現するには,政策内容そのものについての分析だけでなく,政策をうみだす政治制度についての考察が必要である。本稿では,現在のところもっとも体系だった制度設計論の一つを提供している公共選択論をとりあげ,その妥当性を批判的に検討する。従来の公共選択論の分析によれば,政治過程は本質的に非効率なものであり,政治制度は政治過程に対して制限的に作用するものが望ましい。このような制約の存在は,効率的な政策アウトプットを積極的にうみだすことはないにせよ,非効率な政策アウトプットを抑制できるからである。しかし,このような制度設計論には幾つかの問題がある。第一に,政治過程は従来公共選択論が主張してきたほど非効率ではない可能性がある。二つ目に,政治的市場を抑制すべきであるとする議論は,それによってもたらされる副次的コストを過小評価している可能性がある。三つ目に,これが最も重要な点であるが,政治的市場の抑制を唱える議論は,参加や熟慮といった政治特有の価値の重要性を考慮していない。参加や熟慮の過程を経ることによってはじめて人々は自らの利益が何であるのか,また,社会全体にとって何が適切であるかを知ることができるのである。政治的市場の抑制はこうした政治的価値の実現を困難なものとし,結局は,より不適切な政策をもたらすことになろう。