2000 年 2000 巻 p. 2000-1-021-
本稿の目的は,政府が国債の増発を継続する場合の金融政策当局における公開市場操作の特徴を明確にし,さらに同ケースにおける財政および金融政策当局間の協調方式を明らかにすることにある。まず,長期国債流通市場の市場環境と中央銀行の行動について,(1)国債の弊害が生じていないケース,(2)同弊害を金融政策当局優位の政策運営にて対処しているケース,(3)同弊害を財政当局優位の政策運営にて対処しているケース,以上3ケースに分けて仮説設定を行った。次に,Granger–Causalityテストとインパルス応答関数を用いて仮説検定を実施し,以下のような結果が得られた。第1に,債券の流通量については金融政策当局優位の政策運営により調整が実施されているものの,実際に国債の流通利回りを引き下げ,物価水準を調整しているのは,財政当局であると考えられる。したがって,当分析結果ではクラウディング・アウトは認められなかったものの,財政当局による国債引受・購入の原資の枯渇は同現象を引き起こすことが十分予想される。第2に,財政当局の国債引受はベースマネーの拡大を伴わなくとも,物価水準を上昇させることが結論として得られた。これら2点は,既に日本経済が,累積的国債発行の弊害であるクラウディング・アウトやインフレーションを引き起こす要因を内包している可能性を示すものと考えられる。故に,筆者は,たとえ日本経済がデフレスパイラルに陥っていたとしても,調整インフレ政策や日銀国債引受案を現状の日本経済に適用することは不適切であると
考える。