抄録
政治的言説における「怒り」という感情については、その規範的地位をめぐって、古代から現代まで盛んに議論が行われてきた。しかし、これらの議論は主として規範的な観点から行われ、実証研究との協働は十分になされてこなかった。本稿は、政治的言説における怒りの表出が持つ機能を心理学という経験的な学問の手法を用いて検討し、以上の規範的議論のための1つの基礎を提示することを目的とする。怒りについての現代の哲学的・規範的な議論では、怒りはネガティブな機能(報復機能、回避機能)を持つとする立場と、怒りはポジティブな機能(顕在化機能、洗練機能)を持つとする立場が対立している。そこで、①怒りの機能は主としてポジティブなのかネガティブなのか、②社会的事象の顕在性は調整効果を持つかという2つの問いを立てた。調査の結果、①怒りの機能にはネガティブなもの(報復機能)とポジティブなもの(顕在化機能・洗練機能)の両面があること、ならびに②怒りの機能は顕在性によっては異ならないことが示された。