抄録
公共政策を巡る集団討論により討論参加者の意見が極端化した場合、相異なる意見が排除され、適切な政策判断が歪められる可能性がある。本研究では、公共政策に対する極端主義的な態度として「保護価値」に着目し、討論参加者における保護価値の形成を抑制しつつ、集団討論を進めていくための方法について検討する。具体的には、①公共政策が社会に影響を及ぼす仕組みについて話し合う仕組み説明課題と②公共政策に対する賛否意見とその理由について話し合う賛否理由課題の2つの方法を取り上げ、前者の課題について話し合うグループでは、当該政策に関わる保護価値が緩和される一方、後者の課題について話し合うグループでは、保護価値が強化される傾向にあるとの仮説を措定した。この仮説を検証するため、大学生(n = 94)を対象とした討論実験を実施した。その結果、仕組み説明課題では、集団討論を通して、討論参加者の保護価値保持傾向が低下する一方で、賛否理由課題では、討論参加者の保護価値保持傾向が高まる傾向が見られ、本仮説を支持する結果が得られた。また、仕組み説明課題では、当該政策に関する肯定的論点と否定的論点の双方が提示される傾向にあるが、賛否理由課題では、その否定的論点だけが提示される傾向が見られ、そうした論点の偏りが保護価値の形成を促すことも示された。さらに、両課題の間でグループ内の保護価値保持者の影響にも相違が見られ、賛否理由課題では、仕組み説明課題に比べて、グループ内の討論を通じて保護価値保持者の有する価値が他の参加者に“伝染”する傾向が高い可能性が示された。最後に、本研究の知見が、公共政策を巡る集団極化や合意形成問題に示唆する点について考察した。