抄録
人口減少や高齢化に伴い地域の衰退が懸念される中、住民が社会資本の維持及び管理や地域組織の運営に主体的に取り組み、地域の存立を支えていくことが求められている。その実現には、住民一人ひとりが居住する地域を自分にとってかけがえのない存在だと感じる地域愛着を有することが基本的な前提となるが、地域愛着の醸成に繋がる要因について十分な研究蓄積があるとは言い難い。そこで本研究では、景観の保全状況に着目し、地域における景観の保全状況が、住民の地域愛着を醸成する効果を検討する。具体的には、第1に、歴史的景観キャラクタライゼーションの手法に基づき評価した景観の保全度が高い程、住民の地域に関わる記憶の想起が促される傾向にある、第2に住民の地域に関わる記憶の想起量が多い程、地域愛着が高まる傾向にある、との2つの仮説を措定し、同仮説を、愛媛県宇和島市旧津島町を対象とした景観の保全状況に関する調査及びアンケート調査に基づき実証的に検証した。調査の結果、景観の保全度が高い程、田園をはじめとした自然地物に関連する記憶の想起が促されること、こうした自然地物に関連する記憶の想起が多い程、地域愛着が高まること、すなわち上記仮説を支持する結果が得られた。