抄録
医療現場では、患者の治療・ケア・退院に関する決定が、話合いによって行われている。患者の意思を尊重した意思決定支援が重視されているものの、合意形成を要する話合いでの看護師の役割は十分に明らかにされていない。とくに、精神科領域では、精神障害者の認知・理解力・意思の表出において個人差が非常に大きいため意思決定支援が困難である。本研究の目的は、医療現場で精神障害者の意思決定支援が困難である現状を整理した上で、合意形成の観点から、意思決定支援のための話合いに関する看護師の役割を考察することである。その結果、意思決定支援が困難な現状は、患者の治療法の選択に患者が参加して決定するという素地がなかった精神科病院の環境で、患者の人権尊重の意思決定支援が求められるようになったこと、精神障害者のコミュニケーション能力の個人差、個人内による症状の変化が大きい上に、看護師側の患者に対する認識・リカバリー志向性などの違いが話合いの設定に影響を及ぼしている。そのため、話合いでの精神科看護師の役割として、①理解・共有を促進するファシリテーションだけでなく、②患者・家族の状況にあわせたナビゲーション、③持続可能な方法のアレンジメントがあることを導出した。ナビゲーションによる価値の共有と創出は、創造的な解決策を導出する合意形成の実践につながると示唆された。