抄録
わが国の企業倫理が低下した背景として、短期利益追求主義の強まり、日本的経営と言われる経営手法の変質、企業内部に未だ残る暗黙のムラ社会の存在、メインバンクのモニタリング機能の低下、企業が掲げるCSRの履き違え(または意図的な曲解)が指摘される。そのため、経営者個人ではなく、企業全体で社会からの信頼を維持するような仕組みを確立する必要があり、その方策の一つが企業倫理の制度化である。そこで、本稿では、わが国の企業不祥事に焦点を当てながら、企業倫理に関する先行研究の論点整理に基づく文献レビューを行う。それにより、わが国の企業倫理制度に関する動きや課題等を提示したい。とくに、企業倫理を確立するには、組織内部に制度を設けるだけでなく、制度を有効に機能させる「組織の倫理風土」が重要となる。すなわち、企業倫理の確立を実現するには、企業倫理制度を組織内部で実質的に機能させること、そして、組織の倫理風土にまで落とし込んでいくことが重要となる。