霊長類研究 Supplement
第20回日本霊長類学会大会
セッションID: A-23
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口頭発表
同所的ゴリラとチンパンジーの食性重複の安定同位体比による2地域間比較(予報)
*鈴木 滋陀安 一郎
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抄録

ガボンの2つの国立公園において、同所的なゴリラとチンパンジーの食性重複の程度を、体毛の窒素と炭素の安定同位体比から検討した。大西洋岸のロアンゴ国立公園は地上性草本が少なく、内陸のムカラバ=ドゥドゥ国立公園は過去に択伐をうけた二次林を多く含むが、調査地はどちらも半落葉性の低地熱帯季節林とサバンナのパッチからなり、両者はおよそ100kmしか離れていない。2002年12月から2003年9月の間の延べ2ケ月半の間に、類人猿の新しいネストから体毛を採取し、今回はチンパンジー13、ゴリラ24サンプルを用いて、窒素と炭素の安定同位体比を分析した。その結果、安定同位体比は、1) ゴリラとチンパンジーの種間では、窒素にかんしては、2地域とも重複がほとんどないほどに異なっており、ロアンゴ国立公園のほうがゴリラとチンパンジーの差が大きかった、さらに、2) チンパンジーよりもゴリラのほうが地域差が大きかった。これまで同所的なゴリラとチンパンジーの食性が相違の程度は地域間の比較が困難であったが、安定同位体比の分析によって、近隣の2つの地域個体群の同所的な2種の類人猿の種間、地域間の食性の相違の相対的な程度について、定量的な比較が可能であることがわかった。サンプルサイズが小さいのでまだ予備的な結果であるが、2地域の比較から食性の差は地上性草本が少なくより潜在的競合がきつい地域で大きい可能性を示している。チンパンジーよりもゴリラの地域差が大きい傾向は、ゴリラのほうが、環境に即応した食物を採食することを示唆し、ゴリラは季節に応じて果実採食量を大きくかえるが、チンパンジーは果実に執着するというこれまでにフンや直接観察から明らかにされた採食傾向と対応する。今後、バックグラウンドとなる植物の食物部位の安定同位体比の地域間比較をすることによって、安定同位体比の差の生態学的な意味をさらに検討する必要がある。

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© 2004 日本霊長類学会
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