霊長類研究 Supplement
第20回日本霊長類学会大会
セッションID: B-8
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口頭発表
猿害に対する空間要素の近接性の影響
*森野 真理小池 文人
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抄録
(目的)さまざまな防御策がとられてきたにもかかわらず、なぜ、猿害は減らないのだろうか。捕獲などで被害が減らない理由は、環境変動に対するサルの適応能力にあると考えられる。被害低減と野生のサル個体群維持との両立をめざすならば、農作物の魅力以上の襲撃リスク、もしくは新たな生息環境を設定し、害獣群を人為的に誘導することが必要である。本研究では、サルの襲撃を誘引/阻害する空間要素を明らかにする。
(方法)対象地は鹿児島県屋久島小島地区とし、猿害対象作物は果樹とした。まず、果樹園の被害を4レベルに分け、被害レベルに対する果樹園-空間要素間の距離の影響を調べた。設定した空間要素は、森林(広葉樹林・スギ植林)・居住地・道路・河川である。次に、各要素を説明変数とした重回帰分析を行った。
(結果)森林および川幅の大きい河川については、果樹園に近いほど被害レベルが大きかった。特に、広葉樹林から65m未満に位置する果樹園で被害レベルが大きかった。逆に、居住地および幅員が中程度の道路については、近いほど被害レベルは小さかった。重回帰分析により、被害レベルには、広葉樹林および道路との距離の寄与が大きいことが示された。
(考察)結果より、害獣群であっても、生活拠点として自然林への依存は高いと考えられる。サルを誘導するために自然林を回復するのであれば、農地に隣接した植林・再生は避け、農地から少なくとも65m以上離れたより山側に設定すべきであろう。
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© 2004 日本霊長類学会
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