抄録
発表者らは1997年以来サウジアラビアのマントヒヒの遺伝的変異を検索してきている。今回はこれまでに行ってきたエチオピアの純粋と思われるマントヒヒ(ソマリアとの国境近くに生息している群)とサウジアラビアのものとのミトコンドリアDNA変異を比較し、両者の遺伝的分化を定量し、紅海を挟んで生息する種の由来を考察しようと意図した。サウジアラビアでは北はメジナから南はナジランまで南北1000 kmの間で9群(メジナ、タイフ近郊4群、アルバッハ、アブハ、ワジダバン、ナジラン)160頭から採血を行い、またエチオピア上述の1群から40頭の採血を行い合計200頭の試料を検索した。ミトコンドリアDNAのD-loop の上流部の340塩基配列を決めた。その結果サウジアラビアのものからは19ハプロタイプ、エチオピアのもから6ハプロタイプが見いだされた。これらのハプロタイプをNJ法でクラスタリングしてみるとサウジタイプとかエチオピアタイプと言うようにははっきりとした区別は不可能であった。またアヌビスヒヒのハプロタイプに近いものがサウジアラビアのものに見られたり非常に複雑な様相を示した。この結果は近い過去に両者の間に遺伝子の交流があったことが示唆されが、今後はエチオピア内部のマントヒヒ、アヌビスヒヒやそれらの雑種のハプロタイプを検索し、両者の特性を明確にしてゆきたい。