霊長類研究 Supplement
第20回日本霊長類学会大会
セッションID: B-21
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口頭発表
ヒトとチンパンジーにおける核小体形成部位の不活性化機構
*平井 啓久平井 百合子Ana Karina ZAVALAGUILLEN田上 哲也
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抄録
核小体形成部位 (NOR) の不活性化は、以前から色々な生物で知られていた。特に、ヒトではNORを持つ10本の染色体のうち、7∼8本だけが活性である個体が多いことが知られている。しかし、その機構は未だに不明な点が多い。そこで、その不活性機構を解明する目的で、NOR近傍のクロマチン構造が異なる、ヒトとチンパンジーのNOR不活性化機構を解析した。ヒト48個体およびチンパンジー46個体の染色体を用いて、18SリボソームRNA遺伝子(rDNA)の局在部位決定、ならびにrDNAが存在する部位におけるNORの活性を調べた。加えて、NOR不活性を生じる染色体において、構成ヘテロクロマチン(C-バンド)の存在様式とDNAメチル化についても解析した。両種はrDNAの存在様式多型に大きな相違を示した。すなわち、ヒトではrDNAを失う変異が56%の個体に観察されたのに対し、チンパンジーでは11%にすぎなかった。NORの活性解析では、rDNA陽性部位がNOR陰性になる(rDNA(+)/NOR(-))頻度がヒトでは48%であるのに対し、チンパンジーでは65%であることが明らかになった。rDNA(+)/NOR(-)の機構を探るために、DNAメチル化とクロマチン構造の解析を行ったところ、メチル化が生じている染色体と、不活性部位がC-バンド領域と一致していることが観察された。今回下記の2点が明らかになった。第1に、ヒトではrDNAの座位を失う変異が有意に多いのに対し、チンパンジーでは座位の消失変異は少ないが、NORの不活性頻度が高い。第2に、連続染色法解析から、NORの転写活性は下記の3つの機構によって生じていることが示唆された:(1)rDNAの消失、(2)rDNAのメチル化、(3)C-バンドの位置効果によるrDNAの発現沈黙。結論として、ヒトとチンパンジーの間でrDNA消失変異が異なる理由は、ヒトのrDNAは非相同染色体間交叉によって移動できる位置に存在し、チンパンジーのそれは一部が交叉の生じ得ない領域に存在するためであると推測できる。一方、チンパンジーの染色体にNOR不活性化が頻発する理由は、メチル化に加えてC-バンドの位置効果による遺伝子沈黙も生じていることに起因しているらしい。
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© 2004 日本霊長類学会
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