抄録
ストレスタンパク質とは細胞内で遺伝子が発現しタンパク質が合成されたときに、合成途上のものに作用し正しい折りたたみ構造をとるように働くタンパク質をさす。ストレスがかかった状態になると、細胞の機能が乱れ正しい構造をとれないタンパク質が増加するためこれらが発現誘導されて修復にあたる。その代表的なものはimmunoglobulin heavy-chain binding protein (BiP)、calreticulin (Crt)、protein disulfide isomerase (PDI)である。サル類における小胞体ストレスタンパク質の研究はなされておらず、この研究はサルのストレス機構解明に不可欠である。ニホンザル(3才、オス)から各組織を採取しRNAを分離、精製した。BiP, Crt, PDIのcDNAをRT-PCR法により合成しTAベクターに組み込んだ。いずれも開始コドン~終止コドンにいたる全タンパク質をコードするcDNAを得、全塩基配列を決定した。塩基長はそれぞれ1965 bp, 1254 bp, 1533 bpであった。これらのcDNAのクローニングに成功したことはサル類では初めてであり、今後のサルストレス研究の様々な展開に応用できる。BiP, Crt, PDIの機能部位はサルでもよく保存されていることが示された。また、いずれも小胞体常駐蛋白質の特徴であるC端部のKDEL配列がみられた。これらは小胞体ストレスタンパク質の動物での共通性が高いことを示している。さらにノーザン分析によって、各組織と脳の各領域でBiP, Crt, PDI遺伝子の発現を調べた。BiPは 腎臓、副腎、肝臓で比較的よく発現し、PDIは肝臓、副腎、腎臓と腸で発現していた。Crtは組織全般に均等に発現する傾向にあり、発現の組織特異性が異なっていた。今後ストレスタンパク質の組織多様性という観点からの展開が必要と考えられる。