抄録
【目的】ニホンザル(Macaca fuscata)の屋外飼育集団における順位関係を整理し順位の変動について検討した。ニホンザルのメス間の順位は安定しているとされているが、中順位以降では直線性の仮定から外れる関係や、順位の変動が見られることが指摘されている。
【方法】観察開始時に67個体であったニホンザルの屋外飼育集団を対象に、給餌時のサプラント(場所を明け渡す行動)および、アドリブサンプリングとしてのサプラント、さらに大豆テストを行い、1600事例を記録した。
【結果】優劣順位に関わるデータをまとめたところ、上位個体は観察開始当時5歳であったオスを除いて大きな矛盾もなくほぼ直線的な順位が示された。一方、中順位以降では直線的な関係が成り立たない事例が多く見つかった。特に順位の矛盾点の多い個体を抽出したところ、出産(特に初産)と順位の変動が関連していることが示唆された。一例として、同一の個体同士で勝ち負けの両方が記録された組み合わせを勝敗が一貫していないということから矛盾した組み合わせとすると、観察期間中に初産を迎えた個体を含まない組み合わせでは、矛盾した組み合わせは6.22%であったのに対して、初産を迎えた個体を含む組み合わせでは10.2%の矛盾した組み合わせが観察された。ただし、統計的仮説検定(χ2比率の差の検定)の結果はこれを支持しなかった。この理由として上位個体で初産を迎えた個体は順位を逆転する相手が少なく、上の検定に影響を与えたこと、また年齢が若い個体ほど順位の矛盾が多いことが確認されたことから(相関分析、p<0.05)むしろ年齢の影響が強いことが考えられた。
【考察】本研究のデータから、これまで指摘されてきた、中順位以降および、年齢のより若い個体での順位変動が確認できた。また、出産と順位の変動に関係があることが示唆されたが、この点は一般的な傾向とは言えず、事例として示すにとどめる。