抄録
ニホンザルのオスは一生の中で必ず群れを離れて生活するハナレオスの時期を経験する。ハナレオスは群れを群れの中のメスと交尾してコドモを残したり、群れを乗っ取ったりして、群れの中の社会関係に大きな影響を与える。その影響を考えるためにはハナレオスの密度を知ることが欠かせない。本研究では、定点調査法によってハナレオスの密度を推定した予備的な調査の結果について報告する。調査は屋久島の瀬切川上流の標高700mから1200mの地域で行った。7.5km2の調査域を500mに区切り、その中にひとつの定点を設置して、4ないし7日間その定点でハナレオスの情報を記録した。定点調査中にヒトリザルを発見した場合、最初に発見したとき、および最後に見失ったときの定点からの距離を記録した。のべ1,519時間の定点調査のあいだ、20回ヒトリザルを発見した。ヒトリザルを発見した場合の定点との距離の頻度分布を調べると、定点から10m以内にいるときに発見した事例が多く、それよりはなれた場所にいるヒトリザルを発見することは少なかった(図9)。定点とヒトリザルの距離は最大で50mであった。このことは、定点付近で発見率が高く、ヒトリザルがとくに定点を避けたりはしないという通常の定点調査の仮定を満たしていることを示している。Distance 4.0で調査地全体のヒトリザルの密度を計算すると、もっともあてはまりのよい関数を用いた場合、9.85頭/km2、95%信頼区間は2.8-34.6頭/km2と計算された。もっとも、他の関数を用いると値はかなり異なり、2-3頭/km2前後であった。この方法で信頼しうる密度を計算するには発見事例が最低40回はなければいけないことが経験的に知られており、今年だけの調査ではまだ資料が不足しているが、この方法によってハナレオスの密度が推定できることが示された。