抄録
(目的)ヒトを含めた霊長類には多価不飽和脂肪酸(PUF)を合成する能力が無い。したがって必須脂肪酸を食事から摂取する必要がある。また、心疾患と関連する血中コレステロール値は飽和脂肪酸(SF)とPUFの摂取比に影響される。野生ニホンザルの食物の脂肪酸組成については、種子に関して若干報告されているのみであり、葉、花の採食量は季節によって20-80%もあるにもかかわらずその脂肪酸組成については調べられていない。本研究では野生ニホンザルが採食する植物の部分(葉、種子、果肉、花弁)・採集時期別に、愛知県下で採集した植物60試料の脂肪酸組成を分析した。
(方法)乾燥試料よりクロロホルムーメタノール抽出・へキサン処理して得られた脂質を三フッ化ホウ素・メタノール法でエステル化して、キャピラリーカラム付きガスクロマトグラフ法によって脂肪酸組成を測定した。
(結果)1) 緑葉のn-3系PUFであるリノレン酸含有量は種子(果肉)と比べて約10倍高かった。2) 果実(果肉と種子が分離不可)ではアベマキ等の一価不飽和脂肪酸(MUF)であるオレイン酸を最も多く含む型と、エゴノキ等のn-6系PUFであるリノール酸を最も多く含む型とに分類された。3) 種子及び果肉もサンゴジュなどのオレイン酸型とヤマモモなどのリノール酸型の2種類があった。
(考察)ヒトの所要量ではSF:MUF:PUF =3:4:3とされているが、ニホンザルの植物性食品ではSFは果実、種子では15-20%、MUFは花弁、葉では10%と低く、PUFは葉、花弁で60%と高かったが、果肉では25%と低かった。季節により葉や実への依存度が異なるが、ニホンザルが採食している植物ではSFが低く、PUFが高い傾向が認められ、体内で合成できないPUFを植物の葉や花弁から補っているようである。