抄録
(目的)動物の食物パッチ利用については、採食効率の最適化という観点から理解が試みられてきた。しかし、社会性の強い霊長類においては群れの他個体の影響が無視できないことが指摘されている。そこで本研究では、環境要因:採食速度・パッチサイズ・利用可能性と、社会的要因:個体の順位・近接個体数が、ニホンザルのパッチ滞在時間に対してどのように影響するのか明らかにする。
(方法)調査は宮城県金華山島において、B1群を対称に2003年の春と秋に行った。対象群のオトナメス6頭に対し、終日個体追跡を行い、彼らの採食行動を観察した。パッチ滞在時間・採食速度・パッチ内の個体数・追跡個体の周囲20m以内のパッチ外の個体数を記録した。対象個体が利用した木について樹高、最下枝高、樹冠の長径、短径を測定し樹冠体積を推定した。さらに、木についている食物品目の密度を4段階で評価して、樹冠体積と乗じることによって食物量とした。
(結果)採食速度はパッチの食物量、1頭あたりの食物量とは明確な関係がなかった。また、パッチ滞在時間もパッチ内の食物量、1頭あたりの食物量と正の相関は得られなかった。一方、パッチ滞在時間はパッチ内の個体密度が高いほど長くなる傾向が見られた。この傾向はパッチ内の種子量を考慮しても変わらなかった。
(考察)このことからパッチ滞在時間に対するパッチ内の個体密度の影響が大きいことが示され、個体は他個体と近接しながら採食することを選んでいると考えられる。ただし、調査時期においてサルたちは比較的大きなパッチを利用していたので、パッチサイズがより小さい場合には、パッチ内の個体密度と滞在時間の関係が変わってくる可能性がある。