抄録
ニホンザルの脳研究を通して記憶や情動などの高次機能に関する知見が得られている。しかし、現在あるニホンザルの脳アトラスには、高次機能に関わる大脳皮質の記載が乏しく、アカゲザルの脳アトラスが流用されたりしている。また、その脳アトラスも成体を元に作成されているため、高次機能の形成過程を研究するために必要な若齢個体に関する的確な情報が得がたい。そこで我々は、発達研究にも用いることができるニホンザルの脳アトラスを作成するため、頭部を継続的にMRI撮影し、画像データベースを構築するとともに脳の発達を調べてきた(第18,20回本学会、産総研研究情報公開データベースhttp://www.aist.go.jp/RIODB/brain/welcomej.html)。今回は、合計6個体(生後1ヶ月から9ヶ月まで(n=2)、生後1ヶ月から1年10ヶ月まで(n=2)、生後8ヶ月から3年11ヶ月まで(n=2)、全て撮影を継続中)について、脳の発達パターンをHorsley-Clarke座標系(以下、座標)内での移動と成長という観点から検討した。MRI撮影時には、座標内に画像を再構成できるようにマーカーを付加した頭部固定装置を用いた。個体差はあったが、生後2年以内に延髄は座標内で吻側(前方)に約5mm移動し、前頭極は約15mm前方に、後頭極は約1mm前方に移動した。原点近くに位置する延髄が移動したことから、脳全体が生後2年以内に吻側に約5mm移動したことが示唆される。それをふまえると、生後2年間で前頭葉など大脳皮質の吻側部は前後方向に約10mm拡大し、大脳皮質の尾側部は前後方向に約4mm拡大したと考えられる。脳梁の吻側端、尾側端の位置の計測結果もこの結論を支持するものであった。