霊長類研究 Supplement
第21回日本霊長類学会大会
セッションID: A-12
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口頭発表
ニホンザルの死児運搬について
松井 猛*杉山 幸丸栗田 博之
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抄録
1950年代の末からニホンザルの母親は、赤ん坊が死ぬとその死体をミイラになるまで保持し続ける例が知られてきた。しかし、そのような例は各地の餌付け群で観察されたにもかかわらず頻繁に見られるものでなく、したがって量的な検討に附されることがないまま、母性愛の象徴であるかのような扱いがなされてきた。餌付けで膨張した高崎山個体群では毎年200頭前後の出産があるため、母親による死児保持の例も多く、1977年から2003年までの27年間に150例が周辺データもふくめて記録されてきた。その結果、以下のことが明らかになった。
1.保持される死児は、生後1日以内の死亡(死産を含んでいる可能性あり)と1∼10日の死亡が各約33%、11∼50日が20%で、51日以上生存してから死亡した個体はわずか14%であった。平均死亡日齢は1.57日。
2.死児を保持し続けた日数は、4日以内が80%、5∼10日が18%で、それ以上では15日と17日が各1例あったに過ぎない。平均保持日数は2.93日。
3.死児を保持していた母親の年齢は6∼7歳、したがって初産である例が30%弱に達したが、平均は11.09歳(最高25歳)で、平均出産年齢であった。
4.被保持の死児は雄69、雌81頭で、その性が死児保持に強く関係している傾向はなかった。
 以上の結果、大多数の例で、赤ん坊が母親に完全依存している段階で死亡したときに、保持継続の行動が起きる;死児がミイラ状になるまで保持し続ける例は稀で、3日前後で放棄する;初産の雌が多いが、必ずしも経験の浅い母親に限定されるものではない;等のことを示していた。したがってこれは、母親が新生児に対する死亡以前の行動を継続する行動であり、死児の吸乳や発声などのアクションの欠如が放棄に至らしめると推測される。
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© 2005 日本霊長類学会
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