霊長類研究 Supplement
第21回日本霊長類学会大会
セッションID: A-19
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口頭発表
チンパンジーの染色体特性がヒトとチンパンジーの表現型の相違を大きくする機序となるか?
*平井 啓久松林 清明KIM Heui.-Soo.
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抄録
(目的)ヒトとチンパンジーは約500万年前に分岐したと、分子レベルで推測されている。また、両種の遺伝子レベルの差は僅か1.23%と見積られ、染色体レベルでは9個の挟動原体逆位と1つの縦列融合が認められるに過ぎない。従って、ゲノムレベルの両種間の相同性は非常に高い。しかし、外部形態等の表現型は随分異なっている。では、ゲノムレベルで非常に高い相同性を持つ両種は、遺伝子以外に表現型の相違を生む機序を持つであろうか。染色体レベルでその候補として考えられるのは、チンパンジーに特異的に存在するゲノム不毛地帯である。そこで、その領域の特性と機能を分子細胞遺伝学的に解析した。
(方法)染色体上でPCRを行う方法(PRINS)でゲノム不毛地帯内に存在すると推定されるDNAを検出した。その領域をマーカーとして、チンパンジー雄の精子形成過程の減数分裂におけるキアズマ形成を観察した。さらに、遺伝子発現の状況を細胞レベルで観察するため、リボソームDNAの転写活性変異を解析した。
(結果)PRINS解析からゲノム不毛地帯は少なくとも3種のDNA族(テロメア配列、亜末端サテライトDNA、レトロ様転移因子)から構成されていることが明らかになった。また、雄のキアズマ頻度はヒトより10個程度低いことが推定された。さらに、リボソームDNAは周辺のヘテロクロマチンの位置効果によって、発現が抑制されていることが観察された。
(考察)チンパンジーのゲノム不毛地帯は構成DNAの特性から、転移性複合反復DNA機構(RCRO)と命名した。そして、このRCROが存在することで、キアズマ頻度がヒトより低下していること、周辺に存在する遺伝子の発現が偏向される可能性があることを示唆した。もしこういった現象がヒトとチンパンジーの分岐後500万年の間蓄積されてきたと仮定すると、両種の表現型の差は遺伝子の差から生まれる相違よりも大きくなる可能性がある。
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© 2005 日本霊長類学会
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