抄録
中央アジアのバイカル湖南東のウドゥンガUdunga地域およびモンゴル北部のシャーマルShamar地域の鮮新世後半(約350∼250万年前)の地層からは、コロブス類のものと思われる化石がみつかっている。1980年代に発見されたこれらの化石は、当初現生のリーフモンキーと同じPresbytis属として記載されたが、その後新しい化石属Parapresbytis属として再記載された。下顎骨の形態的特徴からヨーロッパの鮮新世の地層から見つかっているDolichopithecus属に近いと見なす研究者が多く、同属内のParapresbytis亜属とされることもある。本研究では、このParapresbytisの分類学的位置とユーラシア大陸北部におけるコロブス類の進化に関して、ヨーロッパのDolichopithecusおよび日本の神奈川県から見つかっているコロブス類の頭骨化石(「中津標本」)と比較して検討した。
ウドゥンガとシャーマルの化石の年代は、それぞれ約350万年前と約280万年前と推定されていて、その年代には約70万年の差がある。しかし両者の下顎歯列の形態は互いによく似ており、両者が同じ種であることを示唆している。一方、ヨーロッパのDolichopithecusや日本の「中津標本」と比較すると、Parapresbytisの上下顎切歯の臼歯に対する相対的なサイズが大きく、四肢骨の形態も明瞭に違っている。ParapresbytisはDolicihopithecusや「中津標本」とは別属である可能性が高い。
このころのバイカル湖周辺の古環境は、チベット高原の隆起に伴い比較的湿潤な森林から乾燥化していく過程にあったらしい。Parapresbytisはアジア大陸の寒冷化・乾燥化による環境悪化により絶滅してしまったと思われる。