霊長類研究 Supplement
第21回日本霊長類学会大会
セッションID: C-06
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口頭発表
チンパンジー垂直木登り運動の発達と個体差について
*中野 良彦
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抄録
(目的)霊長類の運動様式には様々なタイプがみられるが、共通して行う運動の一つに垂直木登り運動があげられる。その意味で、垂直木登り運動の分析は霊長類の運動の進化についての指標となると考えられ、特に類人猿の行う垂直木登り運動は、ヒトの直立二足歩行の獲得過程を解明する際の大きな手がかりの一つとしても注目されている。これまで数種の霊長類における垂直木登り運動ついて実験的研究を行った結果、見かけ上同様の垂直木登り運動であっても、四肢の運動パターンは独自の機能的特徴を有していることが示された。次の課題として、こうした木登り運動の機能的特徴がどのように発達するのかについて検討するため、実験的研究を行った。
(方法)林原類人猿研究センターにおいて飼育されているチンパンジー4頭を被験体とし、同センター職員の方々の協力を得て、2001年11月より2004年12月まで約6ヶ月ごとにその垂直木登り運動のビデオ撮影を行い、その運動パターンについて分析比較を行った。木登りには直径15cm、高さ5.5mの木製の柱を用いた。
(結果)結果として、以下のような点が認められた。上肢に比べて下肢の運動の変化が大きい。成長に従って、下腿部の支持基体に対する角度が大きくなり、下方への押し出しや足関節の底屈が弱くなる傾向がある。こうした変化は体重増加が小さい個体の方が遅く現れた。また個体によって、上肢の引き上げが弱まる傾向がみられた。
(考察)下肢の運動パターンの変化がするという傾向は、成長にともなう体重増加が強く影響しており、運動とともに、身体の支持のための大きなエネルギーが求められ、足底部の摩擦力を増大させる必要が生じると考えられる。こうしたことから、木登り運動による類人猿段階における二足歩行への前段階としての下肢筋の発達および機能的変化を促進した可能性を示唆している。
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© 2005 日本霊長類学会
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