抄録
体温維持にかかるエネルギーの節約という観点から、冬期の泊まり場選択の温度環境を調査した。食物資源が乏しく気温の低い冬期は、ニホンザルのような内温性動物にとって体温の恒常性にかかるコストが大きくなる。とくに夜間は気温が著しく低下するうえに不活動であるため、もっともコストのかかる時間帯であると考えられる。特定の泊まり場を持たないニホンザルが、この問題を解決するために泊まり場を選択しているかどうかを調べた。
調査は2003年10月から2004年1月までの20日間、千葉県房総半島の高宕山北部のT-?群を対象に行った。温度環境は、対流や放射熱を考慮し、実際に動物の感じている温度としての測定を試みた。ニホンザルと同じ体表面積の発泡スチロールに温度データロガーを仕掛けた温度測定装置を作成し、群れの泊まり場と5つの対照区に設置した。予備調査の結果では、温度環境が森林のタイプによって異なっていたので、5つの対照区は本調査地の植生からサルの利用する代表的な場所(照葉樹林、落葉樹林、スギ林、竹林、農地)に決定した。10分ごとに記録した温度データは、一晩ごとにすべての点を順位付けし、泊まり場と対照区の順位比較をおこなった。さらに、一晩の温度の平均値、最大値、最小値について対照区との順位を比較した。
泊まり場の温度環境は、5つの対照区の温度環境と比べてより暖かいというわけではなく、ほぼ中間の温度になることが多かった。一晩の平均値についても同様だった。しかし、一晩のなかで記録される最高温度は泊まり場で記録されることが多く、約八割が夕方に記録されたものだった。よって、泊まり場を決めるときには、少なくともそのときにより暖かい場所を選択しているが、翌日早朝の温度低下まで配慮して選択していないと考えられる。