抄録
ニホンザルのクーコールは群れの維持を保つコンタクトコールの機能があると考えられている。音の伝播効率や視界は環境によって異なり、クーコールの発声頻度量に影響を与えると考えられる。環境の違いが発声行動に与える影響を検討するために、鹿児島県屋久島と宮城県金華山島の2地域に生息する野生ニホンザル群のオトナメスを対象に発声頻度を計測し比較検討を行った。その結果、屋久島ニホンザル群の方が発声頻度が高かく、オトナ個体の発声が環境的要因によって決定されていることが示唆された。しかし、この地域差は遺伝的要因により説明することも出来る。この発声頻度差が環境的要因か遺伝的要因によって決定されているかを検討するため、2地域のコドモ個体を対象に発声頻度を計測した。その結果、オトナ個体がコドモ個体よりも発声頻度が高く、発声行動に発達的変化が見られた。また、コドモ個体では2地域間で発声頻度に大きな差はなく、発達的な変化は屋久島野生群の方が顕著であった。この結果から、屋久島野生群でのオトナメスの発声頻度量は環境的要因により決定されていると考えられた。これは屋久島の森の視界が悪く、群れからはぐれることを防ぐ必要性が高いためだと示唆される。