抄録
(目的)メスをめぐって争い合う複数の父系集団を考える。オスたちが,隣接集団のオスを殺戮して自集団のナワバリを広げ,多くのメスを囲い込もうとする状況を考える。その結果,集団サイズの格差が拡大/縮小する環境条件を明らかにする。
(方法)計算機実験を行う。エサが豊富で所属集団のオス数が多いとメスは自分の集団へと結集する,エサが少なく所属集団のオス数が少ないとメスは集団間の境界域へ拡散する,と仮定する。エサが多く隣接集団のオス数が多いと,オスにとって隣接集団を攻撃するメリットは低い。エサが少なく隣接集団のオス数が少ないと,オスにとって隣接集団を攻撃するメリットが高い。エサ条件,および集団の被発見率,攻撃のコスト,集団サイズがメスの拡散性に与える影響,殺戮率を独立変数として,一定時間経過後に集団サイズ格差が拡大/縮小するかを調べた。
(結果)エサが多くメスが結集していると,集団間でオスの殺戮は発生せず,集団サイズの格差は不変である。エサが少なくなると,小集団のメスが拡散し,大集団が小集団のオスを殺害する。その結果,集団間格差が増大する。ところが,エサが更に少なくなると,全ての集団のメスが拡散し,大集団同士で殺戮が行われる。その結果,集団サイズの格差が初期状態に比べて却って縮小しうることが分かった。
(考察)エサが多いとき:集団間闘争が起こらず集団間サイズ格差は不変である→ボノボ。エサが少ないとき:大集団が小集団に侵略し集団間サイズは拡大する→チンパンジー。エサが非常に少ないとき:大集団同士で殺戮が起こり,集団間サイズは縮小しうる→集団間で殺戮を行わずメスを交換する契約の契機となり,コミュニティの誕生=人間社会の進化の基盤になったのではないだろうか。