抄録
複雑な社会的グループで生活している霊長類にとって、他のメンバーを認識することは生存、繁殖の上でも必要な認知能力である。なかでも性弁別は、繁殖成功の面において、重要な役割を果たすと考えられる。我々ヒトは、視覚的に、見知らぬ人でも、たとえそれが写真であってもすばやく、かつ正確に性別を判断することができる。しかしながら、ヒト以外の霊長類において、視覚的に同種他個体の性の弁別が可能かどうか調べた研究は少なく、結果も明確ではない。
そこで、本研究では、2頭のオスのニホンザル(Macaca fuscata)を対象に、同種他個体の写真を用いて、性のカテゴリーに基づいた弁別が可能かどうか検討した。刺激写真には、正面、ニュートラル顔、座っている姿勢で全身写真を用いた。課題は、タッチパネルつきのモニターに呈示された刺激写真がオスならば、左のキーを、メスならば右のキーを選択した場合を正解とし、トレーニングをおこなった。トレーニングに引き続き、新奇個体の写真を導入し、性に基づいた弁別課題が獲得されているかどうか検討した。
その結果、刺激写真がAdult個体(7歳以上)の場合では性のカテゴリーに基づいた弁別は可能であった。一方、刺激がNonadult個体(3から6歳)の写真の場合では、性のカテゴリーに基づいた弁別は難しいようであった。性成熟に達していないノンアダルト個体に対して、アダルト個体の乳首や睾丸は目立つといった、性的二型の発達が性の弁別に影響している可能性が考えられる。