抄録
(目的)各種霊長類において、日常的な精子産生を評価することは、それぞれの種の繁殖戦略の進化を推定する上で、きわめて重要であるが、これまでほとんど研究がなされてこなかった。われわれは、ヒトと大型類人猿の精巣を組織学的な手法で分析を加え、ヒトの精巣組織の特徴の解明を試みた。
(方法)ヒト(N=7)、ゴリラ(10)、チンパンジー(11)、オランウータン(7)から、オートプシーまたはバイオプシーによって精巣標本を採取した。標本は、10%フォルマリンで固定、パラフィンに包埋し、4μ mで薄切、HEで染色し、光学顕微鏡で観察した。
(結果)ヒトの精巣組織は、7個体中6個体に精子形成が認められた。しかし、精子形成があったものでも、精上皮の厚さ、精上皮サイクルの様相などの点で、非常に個体差が大きく、精子形成に個体差が大きいものと思われた。精子形成は、チンパンジーで最も活発で、ゴリラは不活発だが、ヒトではその中間の様相を示した。ヒトの間質は、繊維がまばらで、ライディヒ細胞の細胞塊が散見された。その密度は、ゴリラとチンパンジーの中間であった。
(議論)ヒトの精巣の組織学的特徴としては、精子形成のいくつかの指標が、ゴリラとチンパンジーの中間であり、オランウータンに比較的近いように思われること、また、非常に個体差が大きいことがあげられる。ただ、ヒトの精巣標本は、すべて死亡個体から採取したので、老齢のものが多いため、これが、結果をゆがめている可能性が残る。加齢に伴う分析は、今後の課題としたい。