抄録
これまで、霊長類の共通祖先は夜行性だとおもわれてきた。しかし最近になり、錐体視物質の研究や、化石の研究にもとづいて、昼行性だったという説があらわれてきた。一方、霊長類の活動リズムにも、夜行性と昼行性だけでなく、夜も昼も動き回るという周日行性(cathemerality)が加えられた。そして、周日行性は、霊長類に限らず、多くの哺乳類で知られている。
そこで今回、祖先的形質を備えているとされる曲鼻類の活動リズムと、錐体視物質の種類と色覚、タペタム(輝板)の有無などを調べ、霊長類の夜行性起源説の妥当性を検討した。
アイアイやスローロリスをはじめ、多くのものが2色性である。有胎盤類の祖先は2色性であったと思われるので、霊長類の共通祖先も2色性色覚だったと思われる。単色性や多色性のものは、その後、派生したのだろう。
霊長類のタペタムは全て、細胞性で、リボフラビンが有効成分とされている。何回かにわたる収斂進化ではなく、単一起源と思われる。夜行性のものはもちろん、昼行性、周日行性のものにもみとめられる。チャイロキツネザル類(Eulemur)とエリマキキツネザル(Varecia) はタペタムを欠くが、失ったと思われる。霊長類の共通祖先はタペタムを持っていたと思われる。
したがって、霊長類の共通祖先は2色性色覚で、タペタムを持っていたと思われる。共通祖先が夜行性だったとしたら、なぜ2色性か?昼行性だったとしたら、現生曲鼻類の全ての昼行性のものがタペタムをそなえるのはなぜか? 現生哺乳類で一般的な活動リズムである周日行性だったとしたら、周日行性のチャイロキツネザル類がなぜタペタムを失ったのか? 化石では、曲鼻類の最も祖先的なものとしてNotharctusがあげられるが、昼行性だったとされる。まだ解決すべき問題がたくさんある。