抄録
Parapresbytis eohanumanは、バイカル湖南東の中部~上部鮮新統から産出したコロブス類である。歯顎標本の他に、上腕骨遠位部と不完全な尺骨が収集されている。本研究では、この体肢骨標本をアジア・アフリカの現生コロブス類やヨーロッパ産化石属と比較し、Parapresbytisの特徴について検討した。
比較は、上腕骨遠位部と尺骨近位部のノギスによる計測値を主成分分析にかけて行った。2つの体肢骨標本は同一個体のものと報告されていたが、大きさが上腕骨ではNasalisやSemnopithecusの大きなオス個体程度であり、尺骨はこれらより大きく、別個体のものである。上腕骨形態については、Dolichopithecus、Mesopithecus、Semnopithecusという地上性の属が、他のコロブス類から分かれる。Parapresbytisは後者の範囲に入る。尺骨形態ではこの判別はやや弱い。
Parapresbytisはアジア産の属だけでなく、アフリカの属とも似ていて、系統学的には、この類似はコロブス亜科の原始的状態を反映していると考えられる。ParapresbytisはRhinopithecusやPresbytisとの近縁性が議論されてきたが、本標本の形態で特定のアジア産属との近縁性を評価することは難しい。この化石属がDolichopithecusと近いとする説もあるが、今回の結果はこの説を支持しない。また、形態比較からはParapresbytisが地上生活に適応していたという証拠は見られず、むしろ多くの現生コロブス類と同じように、基本的に樹上性であったと考えられる。この化石は緯度50度を越える地点から産出しているが、Parapresbytisはこの地域に生活様式を変えて進出したのではなく、この地に現生コロブスが生活しているような森林環境が存在したのであろう。