抄録
Paradolichopithecus(オナガザル亜科Cercopithecinae、ヒヒ族Papionini)は、前期鮮新世~鮮新世末(約 350-170万年前)にかけてユーラシア大陸に生息していた地上性の大型(約23-35kg)のサルである。フランス、スペイン、ギリシア、ルーマニアなどヨーロッパのほぼ全域から化石が見つかっているが、それ以外にも中央アジアのタジキスタン南部のKuruk-Say地域の後期鮮新世の地層からParadolichopithecus sushkiniとされる化石が見つかっている。
ヒヒ族内で(狭義の)ヒヒ類Papioとマカク類Macacaの系統が分岐したのは中新世末期と推測されており、鮮新世後半の化石ヒヒ族は両系統が分岐して間もない頃にあたる。Paradolichopithecusの形態もマカクとヒヒの中間的な特徴を示している。比較的長い鼻面、大きな臼歯、涙骨の涙管の位置などはヒヒ的な特徴を示している。しかし眼窩前部の「ストップ」と呼ばれる凹部が未発達な点や、上顎骨陥凹や下顎骨体の窪みがあまり顕著でない点は、マカク的である。
頭骨の外観以外でヒヒとマカクを区別する特徴としては、上顎骨内にある上顎洞maxillary sinusの有無が注目されている。上顎洞は真猿類の祖先では存在旧世界ザルではマカク以外では全て消失したことが最近の研究でわかってきた。つまりParadolichopithecusの頭骨に上顎洞がなければ、マカクとヒヒが分岐する前の原始的なヒヒ族の状態を示している可能性が強く、上顎洞が存在すればマカク類である可能性が高い。本研究ではKuruk-Sayで見つかっているP. sushkiniの二つの頭骨の内部構造、特に上顎骨付近の構造をCTスキャナーを用いて観察し、上顎洞の発達程度について検討してみた。