霊長類研究 Supplement
第22回日本霊長類学会大会
セッションID: B-03
会議情報
口頭発表
テナガザルの属間雑種個体について
*平井 啓久平井 百合子早野 あづさ堂前 弘志桐原 陽子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

テナガザル類は、Groves (1972)の提唱以来、1属(Hylobates)4亜属11種から構成されることが広く認められていた。しかし、Roos & Geissmann (2001)はミトコンドリアDNAの系統解析から、4亜属を属に格上げする必要があることを提唱した。その理由は、テナガザルの4亜属間がヒトとチンパンジーの間と同じ程度、あるいはより高い分子距離を示したからだ。このことは形態分類研究者にも受け入れられ、最近、独立した4属(Hylobates (HY)、 Bunopithcus (BU)、 Symphalangus (SY)、 Nomascus (NO))が使用されるようになった(Brandon-Jones et al. 2004)。さらに、分子と音声解析によって、4属の系統関係はNOがテナガザル科の最基部に位置し、続いてSY、 BUそしてHYの順に分岐したことが示唆された(Roos & Geissmann 2001; Geissmann 2002)。ただし、染色体解析ではほぼ逆の見解(BU > HY > SY > NO)が示されている(Muller et al. 2003)。分岐の見解は異なるものの、両データともHYとNOは最も遠い属間関係にあることを示した。最近我々は、本2属種の間で思いがけなく誕生した雑種個体を調べる機会をえたので、その細胞遺伝学的データを報告し、進化的考察を加えたい。動物園の記録によると、シロテテナガザルのメスがNomascus sp. のオスとの間に 2頭のメスを出産した。その子供のゲノム構成を、染色体特性を用いて分析したところ、不確かだった父親の種は、ホオジロテナガザル(N. leucogeys) と推測された。毛色パタンは両親2種の特性を比較的均等に発現しているように見受けられた。本雑種は世界で初めての事例であり、テナガザルの進化の考察にとって意味深い事件である。

著者関連情報
© 2006 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
Top