抄録
(目的) 常染色体とY染色体のマイクロサテライトDNAを標識として下北半島のニホンザルの遺伝的変異性を定量し、周辺地域とのちがい、タンパク質やミトコンドリアDNAの結果とのちがいを検討する。得られた結果から北限のニホンザル集団の遺伝的特性およびその原因を考察する。
方法) 4塩基反復の多型を示す常染色体上のマイクロサテライトDNA11座位および非組換え領域にあるY染色体上のマイクロサテライトDNA3座位を分析した。下北半島の野生群から得たDNA試料41(このうちオス試料は15)を分析した。また比較のため、他の東北地方の集団(試料数は白神 13、五葉山 7、宮城 2、山形 24、福島 8)についても同様の分析を行った。ヘテロ接合率、対立遺伝子有効数で変異性を定量し、集団を比較した。
(結果) 下北半島の集団は常染色体11座位すべてで多型を示した(対立遺伝子数の範囲は2~6)。また、3座位の組み合わせでY染色体には3種類のタイプが区別できた。集団比較では変異性が試料数に依存した変化を示すものの、試料数の影響を加味した分析から、下北半島の集団では常染色体とY染色体のいずれの遺伝子でも変異性が低い傾向が認められた。
(考察) タンパク質変異の研究では今回と逆に下北半島の集団の高変異性が報告されている。この相違の原因としては、下北半島で集団サイズの一時的減少にともなう遺伝子構成の機会的変化の影響(ボトルネック効果)が強く生じており、少数の多型座位をサンプリングする変異性推定では誤差が大きくなる可能性が考えられる。一方、母性遺伝するミトコンドリアDNAで下北集団は他所と同じ変異を示すので、集団の成立時期が他より古いとは考えにくい。また、Y染色体で変異性が低いことは、下北集団と周辺地域の遺伝的交流が乏しく、地理的にも遺伝的にも孤立した状態にあることを示唆する。