抄録
(目的) これまでの研究で、北アルプスの西側に位置する富山県内のニホンザルの群れから、5タイプのミトコンドリアDNA変異が検出された。本研究では、これら5タイプの群れの分布の由来について広域的に検討するため、北アルプス周辺の富山県、新潟県、長野県、岐阜県に生息するニホンザルを対象にしてミトコンドリアDNA試料の採集と分析をおこなった。
(方法) 血液と糞からDNA試料を調製した。ミトコンドリアDNA非コード領域をPCRで増幅し、可変性の高い塩基配列を、血液は412bp、糞は202bpについてダイレクトシーケンシング法で解読してタイプを判定した。DNA変異のタイプは川本(2006)の分類に従った。
(結果と考察) 5タイプのうち、JN20タイプは富山県東部の魚津市と黒部市にまたがる小地域に局所的に分布していた。また、これと1塩基だけ異なる配列をもつJN21は黒部川流域沿いに黒四ダムに至るまで連続分布しているが、後立山連峰を越えた北アルプス東側の長野県大町市には塩基配列が大きく異なるJN17が分布しており、後立山連峰の稜線が両タイプの境界となっている。一方、新潟県糸魚川市の海岸沿いの地域や、ここから長野県小谷村に至る姫川流域にはJN21が分布しており、このタイプは北アルプス北端の低山帯を迂回して日本海沿いに北上し、姫川沿いに内陸部へ至っている。JN19は富山県中部から岐阜県北部に至る北アルプスの西側斜面に連続分布する集合性の強いタイプである。一方、JN19とは1塩基の変異をもつJN18は富山県滑川市や岐阜県八百津町など少数の断片的な記録があったが、今回の調査で岐阜県高山市朝日町、高根町の飛騨川流域の群れから検出された。不連続であるが中部地方の南北に広域的に分布するタイプであることが分かった。
本研究は、平成14年度~17年度京都大学霊長類研究所共同利用研究として実施した。