抄録
霊長類の食物パッチ利用には食物環境だけではなく、社会的要因も大きな影響を及ぼしていると考えられてきた。我々のこれまでの研究から、ニホンザルではパッチ内に他個体がいることで個体の食物摂取効率が向上する場合があることが明らかにされている。しかし、この他個体の影響は群れサイズによっても異なると考えられる。そこで、2003年から2005年にかけて、群れサイズが増加した宮城県金華山島のニホンザルB1群を対象として、他個体の存在が食物の摂取効率に及ぼす影響の違いを検討した。
1日1頭のオトナメスを追跡し、8分間のセッションごとに観察を行った。パッチ滞在中には、食物取り込み時間・探索時間・取り込み食物数と同一パッチ内の個体を記録した。また利用されたパッチのサイズを計り、食物密度を4段階で評価した。パッチサイズ、食物密度、パッチ内個体数、群れサイズがセッションごとの取り込み速度(取り込み食物数/取り込み時間)および採食効率(取り込み食物数/(取り込み時間+探索時間))に及ぼす影響を一般化線形モデルによって定量化した。
取り込み速度、採食効率ともに、パッチサイズ、食物密度、群れサイズから負の影響を、パッチ内個体数から正の影響を受けていた。採食効率は群れサイズとパッチ内個体数の交互作用の負の影響を受けていた。また、2003年、2005年でパッチ内の個体密度に有意な差が見られたが、個体密度の上限は両年でほとんど変わらなかった。このことから、群れサイズの増大によってパッチ内の個体密度が高くなる頻度が増したが、各個体は個体密度がある程度以上にならないようにパッチ選択を行っていると言える。パッチ内個体数が増えすぎると取り込み速度、採食効率に負の影響を及ぼすことは十分に考えられ、個体密度の上限はその閾値によって決められている可能性も考えられる。