抄録
マレーシア・サバ州・ダナムバレー保護区内にあるBRL(Borneo Rainforest Lodge)周辺を縄張りとするテナガザル家族(父、母、姉、弟の4個体)を対象に、2004年と2005年、8月(乾季)と12月(雨季)に1週間連続追跡を試みた。その行動軌跡をGPSによって記録すると同時に、10分間に1回の瞬間タイムサンプリング法による活動時間配分を求めた。その結果、下記のような雨季と乾季の行動の違いが明らかになった。
1)一日当たりの移動距離は乾季で長く(1560m, n=14)、雨季で短かった(981m, n=14)。
2)行動終了時刻が雨季では早く(13:21, n=12)、乾季では遅かった(14:52, n=15)。
3)活動時間配分(父、姉、弟3個体の平均)をみると、雨季でfeedingが長く(雨季37.9%、乾季27.9%)、moving(雨季29.8%、乾季34.4%)とgrooming(雨季1.1%、 乾季7.3%)は少なかった。また、乾季には、追いかけっこやじゃれ合いなどの遊びが1.3%あったが、雨季では0%だった。これ以外のsinging(雨季1.8%、 乾季1.8%)とresting(雨季11.5%、乾季10.5%)には大きな差がなかった。
これらの結果から、雨季には雨による体力の消耗を防ぐために、行動距離や活動時間を少なくし、食べる時間を増やすことによって環境に適応しているのではないかと考えられた。一方、groomingや遊びは体力の余裕がある乾季によく行われることがわかった。
また、個体の移動順序についても記録したが、弟の先頭を行く回数が4歳頃に急増した(2004/12:10.0%、2005/8:10.8%、 2005/12:38.9%)。子どもの行動は成長とともに活発になっていき、思春期になって群れから離脱し自立する準備をするものと考えられる。