抄録
(目的) テナガザルは一般的に「一夫一妻」型の社会構造を持つ。野生では、オスが近接の維持を保ち、また多くのグルーミングがオスからメスへ行われていることが知られており、オスによる配偶者防衛が社会構造を形作る要因ではないかと考えられている。本研究では飼育テナガザルのグルーミングの方向性について調査を行い、野外での調査結果との異同についても検討した。
(方法) 上野動物園、横浜市立金沢動物園、浜松市動物園および日本モンキーセンターにおいて飼育されているシロテテナガザル3ペア、ミューラーテナガザルのオスとアジルテナガザルのメスの1ペアの観察を行った。各ペアについて10日間、計58時間40分から66時間50分の観察を行い、ペアの間で行われたグルーミングの時間と方向を記録した。間隔が5分以内のグルーミングを同一セッションとし、これを基に比較を行った。
(結果) 2ペアのシロテテナガザルではグルーミングがメスからオスへ有意に多く行われた。それに対して1ペアのシロテテナガザルでは、オスからメスへ有意に多く行われた。混群の1ペアでは方向性に有意な差はなかった。
(考察) 今回の調査によりペアによってグルーミングの方向性が様々であることが明らかになった。野外とは異なる結果となったが、その要因として、飼育下という状況で人為的にペア作りがなされていることなどが考えられる。ペアの状況を比べると、メスからオスへのグルーミングが多かったペアでは繁殖経験がなく、交尾も観察されなかった。それに対してオスからメスへのグルーミングが多かったペアではこの10年間に3度繁殖しており、交尾が観察された。方向に偏りのなかったペアでは13年前の8度目の繁殖が最後だが、交尾が観察された。これらのことから、グルーミングの方向性とペアの繁殖の状況に関連がある可能性が示唆された。