霊長類研究 Supplement
第22回日本霊長類学会大会
セッションID: P-31
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ポスター発表
野生チンパンジーにおけるαオスのリスク:αから陥落したオスの動向
*井上 英治
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抄録

複雄群を形成する霊長類で、第一位オス(αオス)は、雌へ近接する優先権があり、繁殖に有利であるとされる。しかし、オスの順位は一時的な状態であり、雄の一生を通じて、高順位になったオスが高い繁殖成功が得られているかはわからない。本研究では、αから陥落した雄の一年間の動向から、αオスのリスクについて検討した。タンザニア、マハレ山塊国立公園にて、2004年10月から2005年9月までMグループを観察した。2004年10月時点で、FNはαオスから陥落しており、Mグループの遊動域内を遊動していた。調査中、調査助手や他の研究者を含め、FNを観察できた日は、たったの45日であった。個体追跡した日は23日で、そのうち19日で他の個体と出会った。雌とのみ出会った日は一日のみで、多くの場合で雄と出会った。このうち、MAという同年代のオスと最もよく出会い、2頭だけでいる日もあった。一方、現αオスのALとはあまり出会わなく、ALと出会った日は、合計して5頭以上のオスと出会った日であった。また、発情メスと出会いその発情メスが他のオスと交尾した日は2日のみで、いずれの日もFNは交尾をしなかった。このように、FNは群れの他個体と過ごす日数は少ないが、群れの遊動域内に留まっているようであった。これは、成熟したオスが移籍できないためであろう。仲のよいオスを中心に多くの個体と一緒にいることはできるが、現αオスといることは難しいようであった。このために、他個体と常に行動をともにできないのであろう。また、発情メスがいると騒動が起こる可能性があるので、発情メスがいるときには、群れのメンバーと会わないようにしているのかもしれない。このような状態が長く続くようであれば、生涯繁殖成功を考えたときに必ずしもαを経験したオスが有利とはならないのかもしれない。

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© 2006 日本霊長類学会
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