霊長類研究 Supplement
第22回日本霊長類学会大会
セッションID: P-41
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ポスター発表
高齢カニクイザルの妊孕性 -若齢個体との比較-
*下澤 律浩岡田 浩典羽鳥 真功吉田 高志山海 直
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抄録
我々は、カニクイザルの若齢群および高齢群の間で行った排卵日の比較により、後者で個体間のバラツキが大きいことを報告した(04年本学会)。今回、高齢カニクイザルにおける妊孕性を調べるために、当センターの標準的な交配方式である3日間交配の若齢群との比較を行った。
実験には妊孕性が確認されている5-10歳の若齢群23頭、16-23歳の高齢群30頭のカニクイザルを用いた。若齢群の場合、月経初日を第1日目とする月経周期の第11-14日目まで、高齢群では第9日目から排卵の確認されるまで、最長第17日目まで雄と同居した。同居期間の午前中に膣内を綿棒で拭ってTYH溶液中にそれを浸し、浮遊した精子の有無、数および運動性を観察した。排卵日の推定のために、同居前日から同居終了まで毎日の血清中E2濃度を測定した。実際の排卵はE2のピーク値から急激な低下の間に生じるが、便宜的に急激に低下した日の前日を排卵日とした。妊娠診断は、同居開始後5週目に超音波画像診断装置を用いて行った。
観察期間中に排卵が推定された若齢群および高齢群は、それぞれ14頭(60%)および25頭(83%)であった。これらの内、排卵日を挟んだ前後2日、計5日間のいずれかで精子が確認できた個体は、それぞれ13頭(93%)および18頭(72%)であり、これらの内で妊娠した個体は、それぞれ9頭(69%)および7頭(39%)であった。このように排卵時期に精子が観察された個体の妊娠率は、若齢群で7割と高率であったが、高齢群で4割と低い傾向が確認された。高齢群でのより長い交配期間にもかかわらず妊孕性の低さは、卵の質、受精の成立あるいは受精卵の発生能などの原因によるものと考えられる。また、観察期間中に排卵が推定できなかった個体においても、若齢群で44%、ならびに高齢群全ての個体で精子が確認できた。若齢群よりも高齢群の方が雄との交配に対して寛容であるという心理・行動学の観点から興味ある知見が得られた。
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© 2006 日本霊長類学会
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