抄録
マダガスカルのベレンティ保護区には、染色体数の異なるチャイロキツネザルの2種(Eulemur fulvus rufus: 2n=60とE. collaris: 2n=52)が約30年前に人為導入され、集団が急速に成長してきた。本研究では、この種間雑種集団における核型(染色体の数と形態)およびミトコンドリアDNA D-loop領域の塩基配列を分析し、集団の遺伝構造を把握することを目的とした。
ベレンティの雑種個体、純粋なE. f. rufusおよびE. collarisから試料採取し、染色体分析(G-bandおよびC-band)とD-loop領域の塩基配列の決定をおこなった。
ベレンティ集団において、染色体数は2n=56、 58、 59、 60であった。E. collarisに特徴的な4種類のメタセントリック染色体頻度にばらつきはみられなかったが、それらの組み合わせに偏りがあった。D-loopの塩基配列はベレンティ集団で6タイプ、E. f. rufusで2タイプ、E. collarisで1タイプみつかった。これらの配列とGenBankに登録された他地域同種および近縁種の配列とあわせて系統分析をおこなったところ、ベレンティ集団でみつかった1タイプはE. collarisと一致し、5タイプはE. fulvusのクラスターに含まれた。染色体、D-loopの配列ともに、ベレンティ集団内のグループ間でタイプの分布に偏りがみられた。
ベレンティのチャイロキツネザルは雑種第一代よりも交配がすすんでいることがあきらかになった。ミトコンドリアDNAの分析から、集団設立には少なくとも5頭のE. f. rufusと1頭のE. collarisの両種のメスが関与していることがわかった。染色体の組み合わせとD-loopタイプの集団内分布から、世代の多重構造、雄雌の生活史の違いの関与が示唆された。