抄録
[目的] 霊長目で最も古い時代に分岐した原猿類の系統進化を明らかにすることは、霊長目の起源を考えるうえで非常に重要である。科レベル・棲息地域の代表種となる原猿亜目 (原猿類)のミトコンドリア DNA(mtDNA)全塩基配列データを決定し、それらを用いた分子進化的な研究を試みた。
[方法] 原猿亜目11種を含む12種の霊長目mtDNA全長配列を決定した。最尤法・近隣結合法を用いた系統解析には、報告されている霊長目14種とアウトグループ3種のデータを加えた29種のデータセットを用いた。また、分岐年代推定には、系統解析に用いたデータに哺乳類22種のデータをアウトグループとして加え、進化速度の一定性を仮定しないThorne-Kishinoのベイズ法で解析した。
[結果] mtDNA上の遺伝子を領域ごとに系統解析し、それらを総合した結果、真猿類、メガネザル、曲鼻猿類(キツネザル、ロリス下目)、これら3グループの関係から想定される3つのトポロジーは有意差を持たず、それぞれが棄却できない結果となった。霊長目の分岐年代推定では、現生霊長目が種分化したのは7500(8100-6700)万年前と推定された。また現生原猿類の起源は6300(7000-5600)万年前、現生キツネザル類、現生ロリス類の種分化は5400(6100-4600)万年前、3500(4200-2800)万年前とそれぞれ推定された。
[考察] 霊長目内で、キツネザル下目、メガネザル下目、新世界ザルの塩基組成にCの減少、Tの増大がみられた。そこで、CとTをピリミジンとして扱いA、G、Yの三塩基データとして系統解析に用いると、真猿類とメガネザルが近縁関係になることを支持するブートストラップ値が上昇した。こうした現象から、mtDNAによる解析においてメガネザルの系統的位置づけを不明確にしていた原因は、塩基組成の偏りにあることが示唆された。