抄録
(目的)BDNFとその受容体TrkBは、霊長類の脳の発達と老化に重要な脳内機能分子である(Hayashi M. 1997, 2002)。ツパイは進化的に霊長類に近縁の哺乳類で、寿命も約7年とラットの約3年よりはるかに長いことが知られている。従来、ツパイ脳におけるBDNFとTrkBの免疫陽性構造についての記載はなく、またその加齢変化も報告されていない。今回比較解剖学的観点から、ツパイ海馬体におけるBDNFとTrkBの免疫陽性構造とその加齢変化を、免疫組織化学法で調べた。
(方法)オスのコモンツパイ4頭(1年4ヶ月の成熟期2例、6年6ヶ月と7年5ヶ月の老齢期)の4% パラホルムアルデヒドで固定した脳(ドイツ霊長類センターから供与)を使用した。 海馬体周辺について40μm切片を作製し、BDNFとTrkBに対する抗体(Santa Cruz)を用いて免疫陽性構造を調べた。
(結果)成熟期の海馬体におけるTrkB免疫陽性活性は、歯状回の顆粒細胞やCA1, CA2, CA3および海馬台の錐体細胞に観察された。強い免疫陽性活性は、細胞体および樹状突起に認められた。一方、顆粒細胞や錐体細胞におけるBDNF免疫陽性活性は、細胞体に少なく、樹状突起と軸索に多かった。老齢期の海馬体では、顆粒細胞や錐体細胞のTrkBとBDNFの免疫陽性活性は、成熟期に比較して顕著に減少した。
(考察)従来、我々は老齢期ニホンザル海馬体のBDNF免疫陽性活性が、顕著に減少することを報告している(Hayashi M et al., 2001)。また老齢ラット海馬体においてもBDNFとTrkBの減少が観察されている(Hattiangady B et al., 2005; Shihol M et al. 2005)。今回、ツパイ海馬体においても、BDNFとTrkB免疫陽性活性が加齢に伴い顕著に減少することを観察したので、脳老化に供なう海馬体におけるBDNFとTrkBの減少は、哺乳類に共通した現象と思われる。