抄録
血液キメラはマーモセット亜科のマーモセットとタマリンのグループだけに特異的に起る現象として知られている。その機序は、母体内の胎盤吻合によって胎児間で血液交換がおこり、出産後もお互いの血液を維持し続ける、というものである。この現象が及ぼす生物学的影響について現在解析中であるが、今回は一連の研究のなかではじめて観察されたヨザルの血液キメラについて報告する。
材料・方法:現在京都大学霊長類研究所に飼育されているヨザル16頭のうち1頭の白血球の染色体を解析したところ、2つの異なるゲノム(染色体構成が異なる2型)が混ざっているのではないかという疑問がもたれた。そこで血液細胞と皮膚細胞を培養し、それぞれの染色体を解析した。さらにゲノムの相違を明確にするために、染色体顕微切断法を用いて作製した標識となる染色体の彩色プローブとヒト染色体由来のプローブを用いてFISH法で確認した。
結果:血液細胞の観察においては、第1型(41A)と第2型(41B)の核型がそれぞれ87個と85個の細胞に観察された。一方皮膚の核型は41A型のみであった。FISH法の解析から41B型は染色体相互転座をヘテロの状態でもつことが明らかになった。
考察:血液細胞が約50%ずつの2タイプのゲノムからなり、皮膚細胞が1タイプのゲノムだけからなるというデータは、コモンマーモセットやワタボウシタマリンで観察されたものと非常によく符合する。したがって、このヨザル個体は双児間で起った血液キメラをもつと推定された。記録には双児出産の記載はなく、現在双児の一方しか生存していないので状況証拠のみであるが、実験データは血液キメラを示唆している。41B細胞は染色体相互転座を起こしているが、両親にその変異は観察されないので、おそらく受精後の初期胚で変異が起ったと思われる。