抄録
タンザニアのマハレ山塊国立公園では、研究者はチンパンジーの行動観察の過程で気づいた病気の兆候を アドリブ法で記録してきた。風邪、目疣、腹の腫瘍、白癬、甲状腺腫、などがある。最後に観察されたとき病気と診断された個体がその後行方不明になった場合を病死と仮定すると、病気による死亡率は40%を超える。本研究の目的は、チンパンジーの風邪の流行はヒトの風邪がもちこまれることによるという仮説を調べる一環としておこなった。
[方法] チンパンジーと接触するのは、研究者や旅行者などの外国人と、研究補助員や公園ガイドなどの現地のアフリカ人である。チンパンジーの風邪罹患率に季節性があり、それが住民の罹患率と強く相関すれば、現地の住民によって風邪がもちこまれている可能性が高くなる。もちろん、最終的には病原体を同定しなければ明らかにできないが、研究の第一歩とはなるであろう。チンパンジーについては、7年間の資料を用い、風邪の兆候(くしゃみ、咳、鼻づまり、鼻水垂らし、鼻くそほじり)のいずれか一つを1個体が1カ月間に最低1度示したら、回数、日数とは関係なく1点と数えた。現地人の罹患については、研究補助員と公園関係者が日常的に接する村落にあるクリニックの資料を調べた。
[結果] マハレのMグループのチンパンジーは、風邪の罹患に関して強い季節性を示した。アウトブレイクは、常に6月から10月の間に起こった。これは乾季の初めから終わりに相当する期間である。一方、現地クリニックの統計では、明確な季節性は認められなかった。
[考察] 以上のことから、Mグループのチンパンジーの風邪が、現地人の風邪の流行に端を発するという可能性は低くなったと考えられる。本研究は文科省科学研究費基盤研究A(#12375003, #16255007:代表者西田利貞)、と環境省GERF (F061:代表者西田利貞)によっておこなった。