霊長類研究 Supplement
第23回日本霊長類学会大会
セッションID: B-06
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口頭発表
ゴリラとチンパンジーとシロテテナガザルの肝臓の動脈分布
*宮木孝昌アリムジャン サウット斎藤 敏之熊倉 博雄伊藤 正裕
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抄録
 はじめに:ヒトを含む霊長類における肝臓の動脈供給パターンを検討するために、今回、分類学上ヒトに最も近い類人猿の中からゴリラ、チンパンジーおよびシロテテナガザルの肝臓に分布する動脈を調査した。
 材料と方法:ゴリラ(子供、雄)1頭とチンパンジー6頭およびシロテテナガザル8頭の腹部内臓を取り出し、肝臓周辺の血管と肝臓の動脈を剖出して、描画と写真撮影により記録した。材料はすべて10%ホルマリン液で固定済みのものを、摘出後、50%アルコール液で保存した。ヒトでは、3種の異なる起始をもつ肝動脈が肝臓に分布しているので、これらの肝動脈が存在しているかどうかを調査した。チンパンジーとシロテテナガザルは、京都大学霊長類研究所の共同利用研究(1992宮木)によって入手したものである。
 結果:1.ゴリラでは、2本の肝動脈(中肝動脈と左肝動脈)が肝臓に分布していた。両肝動脈の枝が広義の肝門に沿って吻合していた。中肝動脈は外側右葉と内側右葉、方形葉および胆嚢に分布しており、左肝動脈は外側左葉と内側左葉に分布していた。2.チンパンジーでは、3本の肝動脈(左、右および中肝動脈)が肝臓に分布するもの(1例)、2本の肝動脈(中肝動脈と左肝動脈、中肝動脈と右肝動脈)が肝臓に分布するもの(3例)および1本の肝動脈(中肝動脈)が肝臓に分布するもの(2例)がみられた。肝動脈の肝内分布はそれぞれ異なっていた。3.シロテテナガザルでは、すべての例において、1本の肝動脈が肝臓に分布していた。肝動脈は総肝動脈から分かれており、総肝動脈は腹腔動脈あるいは腹腔腸間膜動脈から分岐していた。
 考察:ヒトでは肝臓が起始の異なる3本の肝動脈および2本の肝動脈から動脈供給を受けているものは、27%(378例中102例)にみられている。今回調査した類人猿の中で複数の肝動脈が存在するものは、ゴリラでは100%(1例中1例)にみられ、チンパンジーでは67%(6例中4例)にみられ、シロテテナガザルではみられなかった。調査した例数は少ないが、ゴリラとチンパンジーでは、ヒトよりも多いことが推測される。
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© 2007 日本霊長類学会
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