抄録
はじめに:ヒトを含む霊長類における膵臓の動脈供給パターンを検討するために、今回、分類学上ヒトに最も近い類人猿の中からゴリラ、チンパンジーおよびシロテテナガザルの膵臓に分布する動脈を調査した。
材料と方法:ゴリラ(子供、雄)1頭とチンパンジー3頭およびシロテテナガザル2頭の腹部内臓を取り出し、膵臓周辺の血管と膵臓に分布する血管を剖出して、描画と写真撮影により記録した。材料はすべて10%ホルマリン液で固定済みのものを、摘出後、50%アルコール液で保存した。ゴリラとチンパンジーとシロテテナガザルの膵臓を、ヒトの膵臓とほぼ同じように、膵頭、膵体および膵尾に大別した。チンパンジーとシロテテナガザルは、京都大学霊長類研究所の共同利用研究(1992宮木)によって入手したものである。
結果:1.ゴリラとチンパンジーとシロテテナガザルの膵臓は、ヒトとほぼ同じように、膵頭、膵体および膵尾に大別された。2.ゴリラでは、上腸間膜動脈の枝は膵頭の一部と膵体の一部に分布して、総肝動脈の枝が膵頭の一部に分布して、脾動脈の枝が残りの領域に分布していた。3.チンパンジーでは、上腸間膜動脈の枝と総肝動脈の枝が膵頭に分布し、脾動脈の枝が残りの部分に分布していたもの(1例)、総肝動脈の枝が膵頭の一部に分布し、脾動脈の枝が膵尾の一部に分布して、上腸間膜動脈の枝が残りの部分に分布していたもの(1例)、および総肝動脈の枝が膵頭の一部に分布し、上腸間膜動脈の枝が残りの領域に分布していたもの(1例)がみられた。4.シロテテナガザルでは、総肝動脈の枝と上腸間膜動脈の枝が膵頭に分布し、脾動脈の枝が残りの領域に分布していたもの(1例)と総肝動脈の枝と腹腔動脈から起こる枝が膵頭に分布し、残りは脾動脈からの枝が分布していたもの(1例)とがみられた。
考察:ヒトでは膵臓は総肝動脈と脾動脈の枝と上腸間膜動脈からの枝によって動脈供給を受けているが、類人猿では膵臓はこれらの動脈供給のほかに、腹腔動脈系だけから受けるものと、上腸間膜動脈系からの分布領域が大きいものが見られた。今後、狭鼻猿や広鼻猿を調査して、検討したい。