霊長類研究 Supplement
第23回日本霊長類学会大会
セッションID: B-11
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口頭発表
ヤクシマザルの採食樹への移動 ―繰返し利用の観点から―
*西川 真理
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抄録
(目的)動物の採食パッチの訪問パターンと移動様式を知ることは、彼らがどのように遊動域内を利用しているのかを理解することに繋がる。ニホンザルは主に樹木で採食を行うため、樹木個体を1つのパッチとみなせる。そこで、採食樹木個体別にサルの訪問回数を調べた。また、樹木個体への移動距離、移動速度を訪問回数ごとに比較した。
(方法)調査は屋久島西部海岸域に行動域をもつE群のオトナメス5個体を対象に、2005年7月~2006年3月におこなった。追跡対象個体の中から1日に1個体を観察対象とし、終日個体追跡をおこなった。個体追跡中は、GPSで遊動ルートを記録した。また、各採食樹での採食バウト長を記録し、樹木にはナンバーテープを付け、種名と採食部位を記録した。
(結果)サルが4回以上繰り返して利用した樹木個体は全体の約5%を占めていた。この中には10回以上にわたって繰り返して利用した樹木個体が含まれていた。また、採食樹への移動距離を1回のみ利用した樹木個体と繰返し利用した樹木個体とで比較すると、繰り返し利用した樹木個体へのほうが長く、移動速度は速かった。また、採食バウト長は、繰返し利用した樹木個体での方が長かった。
(考察)高頻度に繰り返し利用する採食樹木個体が存在することから、サルは採食樹を選択的に利用していることが示唆された。サルは価値の高い採食パッチになることが見込める、すなわち「あの木に行けば必ず一定量の食物を得られるはずだ」という先見性が持てる特定の樹木個体を選好して繰り返し利用していると考えられる。
このようにサルの採食樹への移動は、採食効率の観点からみると効率的におこなわれていると考えられ、ニホンザルは彼らの遊動域内の食物パッチの空間的な位置関係を把握していることが示唆された。
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© 2007 日本霊長類学会
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