霊長類研究 Supplement
第23回日本霊長類学会大会
セッションID: B-10
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口頭発表
食物を巡るニホンザルとニホンジカの関係 ~A friend in need is a friend indeed~
*辻 大和霜田-石黒 真理子大西 信正高槻 成紀
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抄録
(目的)“Gleaning” は樹上性の動物が落とす植物を地上性の動物が採食するという種間関係である。本研究では、ニホンジカ (Cervus nippon) とニホンザル (Macaca fuscata) の間で見られるgleaningを対象として、この関係が地上性の動物にとって利益があるのか否かを明らかにする。
(方法)宮城県金華山島で、2000年5月から2006年12月の約6年間にわたってニホンジカとニホンザルの関係を記録した。同時に、ニホンジカ本来の食物である草本類の利用可能量を調べ、ニホンザルが樹上から落とす食物と草本類の栄養分析を行った。また、ニホンジカの栄養状態は人付けされた個体の体重を測定して調べた。
(結果と考察)Gleaningの発生頻度は春 (3月~5月, n=28) にもっとも高く、秋 (9月~11月, n=15) がそれに次いだ。ニホンジカの栄養状態は食物の不足する早春に最も悪かった。ニホンザルが落とす植物の採食単位重量および総エネルギー含有量は、ニホンジカ本来の食物である草本類のそれに比べて高かった。また春は、ニホンザルが落とす植物の粗タンパク質含有率が草本類のそれに比べて高いという特徴があった。以上の結果は、ニホンザルとの食物を巡る関係は、ニホンジカの採食成功にとって利益があることを示唆する。今後はニホンジカの行動追跡を行ってより詳細なデータを収集し、ニホンジカの採食成功にとってのニホンザルの貢献の程度を明らかにしていく必要がある。
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© 2007 日本霊長類学会
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