抄録
神奈川県の後期鮮新世(約260万年前)の中津層群から見つかっているコロブス類の頭蓋骨化石(KPM-NNC005802, 神奈川県立生命の星・地球博所蔵)は、歯ならびに顔面形態をもとにヨーロッパ産コロブス類Dolichopithecus属と同定され、D. (Kanagawapithecus) leptopostorbitalisと命名された (Iwamoto et al., 2005)。その分類学的位置を検討するために、同標本と、同属ホロタイプである頭蓋骨化石D. ruscinensis (PER-001, パリ自然史博所蔵)をコンピューター断層画像法(CT)で撮像し、その内部構造を比較分析した。その結果、KPM-NNC005802には、大きく外側に広がる下鼻道と、上顎骨全体に広がる上顎洞を確認した。PER-001の内部構造の保存状態はあまり良くないが、そのCT画像から、KPM-NNC005802と同様の形態の下鼻道は確認できたが、上顎洞はないようである。神奈川県のコロブス類化石はDolichopithecus属ではない可能性を強く示唆する。従来の研究では、マカク系統以外の旧世界ザルでは上顎洞が存在せず、代わりに海綿質骨が上顎骨内部を占めているとされてきた。また、現生マカク属には上顎洞があるが、上顎骨全体を占める上顎洞はまれである。一方、ヒト上科では上顎骨全体を占める上顎洞がみられ、ほとんどの新世界ザルでも上顎洞がみられる。さらに、旧世界ザルの祖先系統化石のVictoriapithecus属では上顎洞がないことから、旧世界ザルの共通祖先で上顎洞が欠損し、マカク系統で再獲得されたと考えられてきた。しかし、近年、化石旧世界ザルのCT分析が進み、上述の系統発生仮説が再検討されつつある。それらの研究成果を参照しながら、KPM-NNC005802の系統発生学的位置を検討した。